FEATURE

2023.10.06

人と人との直接のつながり
でしか得られない経験と知識
が私たちの世界を広げる

地球に、人に、動物に優しいことを、と言われるとなんだか壮大で難しそうだし、建前だけじゃ続かない。
でも、ワクワクを諦めたくない私たちにだってほんの少し視点の切り替えをするだけでできる何かはきっとあるはず。
そんな“つづく”のリアルなヒントをBEAMSスタッフの日常から切り取る連載企画。
今回登場するのは〈ビーミング by ビームス〉で統括ディレクターを務める村口 良。
「綿花プロジェクト」を立ち上げ、和歌山と東京都行き来する彼の実態に迫ります。

 

「ビーミングにディレクターとして戻ってくることになった時、比較的お手頃な価格のアイテムを展開するレーベルという前提の中で、自分にできることは何だろうと考えていました。子どもができてから個人的にも大切な人のために先々を考えたいという思いが生まれ、以前このレーベルにいた頃より地球環境に関する興味も断然強くなって、もっと安心して着られる服を届けたいという気持ちが芽生えていたんです。それならこのタイミングでできることをしていきたい、いつか素材そのものから携われるようにもなりたい、なんて夢物語みたいなことを話していたら、企画担当者から会わせたい人がいると紹介されたのが、今回のプロジェクトで尽力をいただいているFCプランニングオフィスの野田さん。そこから1週間後には和歌山で畑を貸してくださる方が見つかったと連絡がきて、行ってみたらトラクターや長靴、鍬といったものを全部用意してくれていて…おかげさまで驚くほどスムーズに前へと進んでいきました。こうして生まれたのが綿花栽培から商品化を実現する「綿花プロジェクト」。2022年の春から畑作業を始めています」

 

 

 

畑のための土地をお借りしている美和繊維工業代表の風神さんも様々な情報を教えてくれる方の一人。

種は老舗の紡績会社「大正紡績」から提供いただいている。和歌山の畑での栽培は今年で2年目。1年目に収穫した綿を他のオーガニックコットンとブレンドして紡績した〈SIMPLE YET(シンプルイェット)〉を発売できることに。収穫したコットンは、生地全体の約5%で使用されている。

 

アイテム詳細は▼こちら▼

メンズウィメンズ

 

「とんとん拍子のように見えますが、完全なる素人だった自分たちにとってはすべて初めてのことですし、何もかも手探り状態。オーガニックコットンを作るため、農薬を使わないので育てる難易度も増します。それでもこうして進められているのは、プロジェクトに共感してくださった多くの方の協力があってこそのことです。4月にタネを撒きその半年後くらいに収穫するまでの間、そしてその後綿花を糸にする工程など、行わねばならないことはもちろんたくさんあります。スタッフと交代で和歌山に行き、地元の方に教えていただいたり、交流を深めたりしながら畑の世話をしてはいますが、毎日畑を見ることはできません。地元の方々が日々の手入れなどをしてくださり、報告やアドバイスをいただけるという状況は本当に恵まれていて、いつも感謝の気持ちでいっぱいです」

 

 

長い間アパレルで働いてきたものの、実際のところ関わっていたのは川下だけ。糸が作られるところやそこから生地になっていくところ、縫製をしているところといった川上をまったく知らなかったんですよね。実際にこうして綿花づくりから始めてみて、洋服一枚を作るためにこれだけ多くの人が携わっていると知ってからは、できるだけ適正価格をキープしてセールなど値段を下げることはしたくないなとか、商品の良さを伝えきれていないんじゃないかとか、これまでとは違う視点を持つようにもなりました。こうして勉強させていただいていることは、何よりも大きな財産になると強く感じています」

 

 

「自分たちでゼロから作る、だけではなく、コットン100%の服がゴミとなってしまった時、どのように分解されていくのかという行く末まで知りたくて、この春から新しく実験を始めました。海中と畑のそばの地中にそれぞれ〈SIMPLE YET〉のTシャツを放置してみたんです。約3ヶ月土に埋めていたものはかなり分解が進んでいることが判明。同様に約3ヶ月海中に沈めていたTシャツはほぼ分解され、ポリエステルを使っている糸とタグだけになっていました。商品すべてが完璧に分解されるように作るのはなかなか難しいことですが、いつかはタグも自然由来にしたりスタンプにするなど工夫できるよう考えていきたいですね」

 

 

 

 

「今住んでいる鎌倉は、何よりも気候やムードが気に入っているのですが、なんていうことのない日常から、充実感が得られるのも鎌倉の好きなところ。子どもにもとてもいい環境だなと感じています。ご近所の方からお裾分けしてもらったり、向かいのお家の方がたくさん作ったからと料理を持ってきてくださったり…そんなやり取りがあるのもいいですよね。特に食の部分では、日常の野菜などは鎌倉市農協連即売所(通称レンバイ)というところでなるべく買うようにしているのですが、ここが本当に素晴らしくて。20以上の生産者が4班に分かれ日替わり交代で売っていて、野菜を育てた方から直接買えるのでとにかく新鮮で美味しい。買うときには献立や料理方法を聞いたり”あのお肉屋さんおいしいよ”なんて地元の情報を教えてもらったりすることもあり、そこでコミュニティが繋がることもあります。レンバイで日常の食材を買うようになってから、地産地消を意識するようになりました。食育という視点でも役立っています」

 

新鮮な野菜や珍しい食材など様々なものが安く手に入る。地元の人はそれぞれお気に入りの生産者がいて、その方から買うために2時間も並ぶ場合も。村口夫婦もいつも同じ方の元に通っているため、子どもを連れて行くと「これ食べたことある?」などと話しかけてもらい、一緒に成長も見守ってもらっているような感覚にこの地域ならではの温かみを感じるそう。

 

 

「鎌倉の前は横浜市内に住んでいたのですが、仕事とプライベートあまり境のない毎日を過ごしていました。そのうち体調を崩してしまったこともあり、まだ結婚前でしたが、妻とたまたま遊びに行ってその空気感の虜になってしまった鎌倉に家を建てることにしたんです。散歩するだけでも気持ちがいいので、ここに引っ越してから週末はほぼ地元。ここに住んでから双子も生まれて、今は3人の子育てに翻弄されているのは事実ですが、それでもどこか以前より余裕があるのは鎌倉に住んでいるからだと思います。例えば朝は、野菜嫌いな子どもたちに、少しでも栄養のあるものを簡単に摂らせたくてスムージーにしているのですが、この材料も地元でコミュニケーションをとりながら買ったものだと思うと、子どもが飲んでいる姿が一層愛らしい。たまにですが夫婦だけの時間を持てた時や最近始めたサーフィン時間などに贅沢を感じられるのも嬉しいです」

 

レンバイで買った野菜たち。

 

レンバイで買った野菜は新鮮でえぐみが少ないのでスムージーにもぴったり。

 

家の近くの果物やさんでは、少し見栄えの悪くなった高級バナナが格安で売っていることがあるので、見つけたらたくさん買って冷凍。朝のスムージー用に使っています。

 

 

「1歳半の双子と3歳の娘たちの成長が本当に早くて、すぐにサイズアウトしちゃうんです。鎌倉市は毎週水曜日に回収してくれるのでもう使わない服や古布を出したり、フリマに出したりしていたのですが、きちんと行く先が分かることをしたいと思っていたところ、知り合いに「古着deワクチン」というサービスを教えてもらいました。着られなくなった古着をまとめて回収できるサービスで、注文するだけで1口につき5人の開発途上国の子どもたちにポリオワクチンを届けられるそうで、今の自分たちにもできることとして数年前から始めました。

 

衣類は開発途上国で安く販売され、現地雇用を創出する上、その収益でもワクチンを届けられるそう。回収袋は大人のTシャツでも100枚以上入る大きさなのでこうして衣替えのたびに整理して溜めています。

 

これからの私の”つづく”

全国にいるビームスのスタッフたちに綿花の種を配り、自宅で育ててもらってできた綿花をブレンドし、プロダクトを作ってみたいです。

 

Muraguchi’s recommendation list

R antique

“人に受け継がれていく”ということに魅力を感じるのでアンティークショップによく行きます。 お気に入りを見つけるたび購入して自宅で使用しています。

 

レンバイの野菜を提供するレストラン

COBACABA

BREEZE BIRD CAFFE

地元ではなるべく”レンバイ”の野菜を使用しているところで食事をするように意識しています。このレストランとカフェも家族でお気に入りのお店です。

レストランやカフェでもレンバイの野菜を使用しているお店で食事をします。

 

まちのコイン

我が家はまだ子供が小さいので何かの活動に参加する様な事はまだハードルが高いのですが、無理なく出来る事として『まちのコイン』 というアプリを活用しています。

大好きな街で人と繋がり、ゲーム感覚で楽しみながら街や環境に良いことができます。

 

PROFILE

  • Ryo Muraguchi 村口 良〈B:MING by BEAMS〉統括ディレクター

    2000年にBEAMS入社。

    〈BEAMS LIGHTS〉のディレクターを経て2021年に〈B:MING by BEAMS〉のディレクターへ就任。2017年に鎌倉に拠点を置き、自然に囲まれた環境でアクティビティを楽しむライフスタイル。3人の子育てに奮闘中。

Photo:Kenta Yoshizawa Direction:Takako Shirasawa