庄司夏子さんとつくる、
オールブラックのシェフウェア

FEATURE

将来の選択肢に
「料理人」が
増えますように。

SELECTOR

庄司 夏子

〈été〉オーナーシェフ

1日1組限定、完全紹介制の超人気レストラン〈été〉。オーナーシェフの庄司夏子さんと〈B印 MARKET BEAMS〉が料理人のためのユニフォームを共同製作しました。料理の世界で美と味を徹底的に追求する庄司さん。セレブリティたちを魅了してきた華やかなひと皿には、料理人の地位と料理の価値を高めたいという想いが込められています。世界に評価されるトップシェフとつくったユニフォーム、その製作エピソードを、今回デザインを担当した穂積優と語ります。

GUEST PROFILE

  • 穂積 優

    BEAMS プロダクト部

    1986年、兵庫県加古川市出身。ユナイテッドトヨタ熊本のディーラー制服、プロ卓球選手の個人ユニフォーム、JR東日本の駅職員の制服などをデザイン・プロデュース。

    2017年にビームスに入社。メンズカジュアルの生産管理を経て、ユニフォーム課に異動。現在はプロダクト部にてファッションの機能美や楽しさを取り入れたモノづくりに取り組んでいる。

ーー庄司さんは料理人のユニフォームにどんな印象を持っていますか?

庄司:伝統的だけど機能的なものはないというイメージですね。一般的なユニフォームは生地が厚くて洗濯しても乾きにくい。学生時代は自分の思い描いているシェフの姿に近づけたくて、綺麗にアイロンをかけて、自分なりのこだわりがあったんです。

ーーご自身が思い描いているシェフの姿ってどんなものでしたか。

庄司:海外のシェフですね。海外はシェフユニフォーム専門のブランドが主流で、生地も薄手で、見た目も機能も兼ね備えたものが使われていて。私もそういうブランドに対して憧れがありました。思春期に制服で学校を選んだり、パイロットになりたいと思ったりするのと同じように、その選択肢に料理人が入ることがあってもいいんじゃないかって。

ーー〈été〉のスタッフユニフォームは〈PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE〉で統一していますよね。

庄司:モノとしてドクターコートに憧れがあったんですよ。ウチのスタッフはケーキの受け渡しもしないといけないので、接客もできるユニフォームがいいなと。〈PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE〉はプリーツがたくさん入っているからシワが気にならない。畳まなくていいですし、手洗いですぐ乾きますし、その機能性がいいなと思って使っています。

ーー黒という色へのこだわりはありますか。

庄司:そうですね。〈été〉のケーキの箱が黒というのもありますし、ブランドイメージとして意識している色です。あとは、うまく調理ができないかけ出しの頃って、ユニフォームにソースが飛び跳ねたりするんですよ。白には常にユニフォームを綺麗に保ちなさいっていう意味合いもあるんですけど、物理的に無理なんですよね。私でさえ、大きい仕込みでは汁が跳ねますから。現場に立つ人間としては黒がいいんですよ。

ーー今回のユニフォームプロジェクトでは、コンセプトや共通のキーワードとして、どんなものが挙げられますか?

穂積:「部活動の黒いチームウェア」ですね(笑)。

庄司:私の通っていた中学がバスケの強豪校だったんですけど、チーム全員がかっこいいジャージを着ていると強く見えるじゃないですか。エナメルのショルダーバッグを斜め掛けしていたりすると、さらに強く見えて(笑)。そういうものがシェフのユニフォームにあってもいいんじゃないかと思って。あんな風に、着ている自分たちが誇らしくなる感じにしたかったんですね。

ーー穂積さんは庄司さんとのものづくりにあたって、どんなものをつくろうと考えましたか。

穂積:これまでにカフェのユニフォームをつくったことはあるんですけど、シェフのユニフォーム製作は初めてだったので、まずはコックコートを調べることから始めました。デザインとディテールを紐解いていきながら、庄司さんが改善の余地があると思われていた機能的な部分を足していくことで、新しいコックコートをつくれたらと考えたんですね。

ーー使いやすさと機能性という面では、生地の選定が重要になってきますよね。

穂積:キーワードのひとつとして「乾きやすさ」をもらっていたので、T/C素材(ポリエステルと綿の混紡素材)を使っています。ストレッチが効いて、かつ摩擦の耐久性も上げられる。その塩梅が一番いい生地を採用していますね。

「料理家あるある」を解決しながら

――穂積さんは庄司さんとものづくりすることで、どんな気付きや発見がありましたか?

穂積:ヒアリングの大切さですね。料理人のみなさんの動きを想像してデザインしても、実際は人によって特性が違うから、ポケットの位置が正しいかどうかといった話はよく出ていました。そういった細かい部分は自分一人では気づけなかったので、庄司さんやスタッフのみなさんからの意見がとても参考になっていて。

庄司:サンプルが完成したら、私とスタッフが着用してフィードバックを対面で伝えていきました。利き手によっても癖は違うし、フレンチ、イタリアンとか料理のジャンルによっても特性があるので、なるべく多くのことに対応できるようにしたかったんです。

プロジェクト初期段階に描いたデザインスケッチ。エプロンは斜めがけを想定していた。

穂積:シェフジャケットのポケットについての意見が印象的に残っていますね。胸ポケットにスマートフォンを入れることを想定してつくったんですけど、実際に入れてみると前かがみになったときに重みで体から離れてしまい、作業を妨げてしまうことがわかって。見た目よりも機能的なリクエストが多かったです。

庄司:そうですね。パンツはワイド目の造りでお願いしました。女性は生理がありますから、ムレやナプキンの交換に対応しやすいサイズ感になっていて。

穂積:パンツはグルカパンツのデザインをベースにしています。最初は裾にかけてテーパードをかけていたんですけど、細すぎるとたくさんの人が着れないという意見をいただいて、シルエットを調整しています。ヒモを締めて裾をたくし上げることができるドローコードの仕様はファーストサンプルにはなかったものです。

庄司:グルカパンツもドローコードという言葉もはじめて知りました(笑)。

ーー服づくりを経験してみて、料理との共通点はありましたか?

庄司:慣れすぎると感覚が麻痺してきちゃうことは同じですね。途中でファーストタッチの部分を思い出せなくなって、セカンドサンプルのタイミングで、何も知らない〈été〉のスタッフにも意見を聞きました。何も情報を伝えずにサンプルを着てもらって、フィードバックをもらったりして。つくり手って慣れてしまうとお客さまの目線を失いがちだから、私は第三者の視点をかなり大事にしています。

ーー没入していくのは危ないですよね。

庄司:そうなんですよ。すべてのことに言えるけど、裸の王様になりがちなんですよね。料理も細かい構成のコースにしてしまうと、お客さまが理解できないんです。私たちとお客さんの知識量には違いがあるわけですから、細かいディテールを伝えても、お客さまには1,2ワードぐらいしか残らない。自分がシグネチャーにしたいものに必要な説明は簡潔でなければいけなくて。

ーーちなみに、襟元に入っているのは庄司さんのサインですか?

穂積:はい、襟元には着る人の名前を刺繍で入れられるようにしているんです。

庄司:海外のイベントで現地のシェフとコラボレーションするとき、著名な方の名前はわかるけど、スタッフの方たちの名前を覚えられない。名前を覚えるのが苦手な私はいつも名前を聞いて、マスキングテープに書いては手に貼ったりして覚えるようにしているんですね。現場での経験からも、目につくところにかっこよく名前を入れればいいんだという発想に至って。名前で呼ぶことはコミュニケーションとして重要ですからね。

シェフジャケット

はじめてのユニフォームづくり。次世代の人たちが料理人になってほしいという想いを込めました。黒いユニフォームって休憩時間に外出しても、センスのいい洋服を着ている風に見えませんか?

このプロジェクトの背景を知らない人にサンプルを渡してみると、「ライダース?」と思ってくれたりして。そんな反応からも、ユニフォームとしての機能を満たしながら、そうは見えないものづくりをするべきだなと思いました。袖にボタンが付いていなくて捲りやすかったりするから、料理以外でも便利なんですよね。

シェフパンツ

料理人が穿くパンツってベルトを付けたくないんです。キッチン台に金具が当たらないほうが作業しやすいから。このワイドなサイズ感はすごく気に入っています。いろいろな体型の人が穿けるし、ウエストを調節できる両サイドのベルトもこれなら邪魔にならない。

このドローコードも、料理人にとってすごく便利なんです。水場作業をするときに裾を簡単にまくれるのはかなり助かります。

サロンエプロン

エプロンは料理人のマストアイテム。最初は斜めがけのエプロンをつくりたかったんですけど、サンプルを試してみたら、着脱に時間がかかってしまったんです。

急いで準備をすることが多い料理人には難しいということで、最終的に完成したのはさっと着れる前掛けタイプ。ボタン付きのポケットは持ちものが落ちにくいし、細長いポケットにはピンセットとかの調理器具の収納に向いているんです。

厨房に立っていると、低い位置の冷蔵庫から食材を取ったりするときに何度もかがむんですね。そんな動作をサポートしてくれるのが両サイドに深く入ったスリット。膝を曲げやすいだけじゃなくて、スリットの間からパンツのポケットに手を入れて、モノを出し入れしやすくもあるんです。

ワンショルダーベスト

料理人って調理器具以外にもいろんな道具を使います。コンパクトなバッグがあれば便利だなと思って、これまでもいろいろと模索してきたんですね。美容師さんのシザーバッグを試してみたけど、しっくり来なかった。そこでつくったのがこのワンショルダーベスト。

私は名刺交換するのに名刺入れを持っていなくて、このベストをその代わりとして使っています(笑)。スタッフはメモを入れたりしていますね。高い位置にあるから胸ポケットみたいな感覚です。

ーー庄司さんは毎年、母校の駒場学園で特別実習を行なっていますよね。私たちも見学させていただきましたが、学生のみなさんへの深い想いを感じました。

庄司:最高のものができた手応えはありますけど、今後は今回のものをベースに学生向けのユニフォームをつくることを目指したいですね。

〈été〉のスタッフも参加し、シグネチャーのひとつであるマンゴーのタルトのレシピを後輩たちに実演した。

庄司:料理人になろうか悩んでいる未来の料理人たちに早く届けたい。いまはかっこいいものをつくるというフェーズが終わって、やっとスタートラインに立てたんだなっていう実感があります。

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( PROFILE )

着ている自分たちが
誇らしくなる
ユニフォームを
庄司 夏子
(〈été〉オーナーシェフ)

1989年、東京生まれ。高校在学中より都内フランス料理店で修業し、2014年、24歳で独立しパティスリー〈フルール・ド・エテ〉、1年後にレストラン〈été〉をオープン。2020年、「アジアのベストレストラン ベストパティシエ賞」受賞。2022年、「アジアのベストレストラン50 最優秀女性シェフ賞」受賞。いずれも日本人女性初となる。

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