#03

(NATURE)

BUYING

BEAMSのバイヤーが屋久島に拠点を設ける理由。

梨本大介
(ビームス バイヤー)
「ビームス」を構成するエッセンスとして、欠かすことができない“アウトドア”の要素。ファッションとはいえ、中途半端ではかっこよくない。だからこそ、カルチャーに本気で精通したバイヤーが買い付けを行なっている。担当するのは、梨本大介さん。彼は東京に加えて屋久島にも拠点を設け、そこでさまざまなフィールドワークを行なっているそう。ということで、今回は「ビームス」のバイヤー陣と共に、屋久島での梨本さんの生活に密着。彼らが“本物”を理解し、追求する姿勢を追いかけた。
冒険が好きなのは、刺激を欲しているから。

「屋久島って奥深くて険しい山があるし、海が綺麗で、川もある。自然のアクティビティを体験するには最高のシチュエーションが揃っているんですよ」

1993年、白神山地と共に世界自然遺産に登録された屋久島。樹齢1000年を超える屋久杉の原生林をはじめ、恵まれた自然の生態系がそこには存在している。「ビームス」のバイヤーである梨本大介さんがその地に魅せられたのは20年以上も前のこと。

「バックパッカーとして世界各地に点在する世界遺産を廻る中、『日本の世界遺産も見ておかなきゃな』って思ったんです。ぼくの母親は青森出身で、白神山地は思い立ったらすぐに行ける。だったらまずは屋久島へ行こうと思って」

梨本さんは東京の昭島市出身。すぐ近くに高尾山や奥多摩など、豊かな自然が広がるフィールドにアクセスしやすい土地で育った。夏になれば母親の実家である青森へと向かい、山に囲まれた場所で暑い季節を楽しんだ。大人になるまでアウトドアが好きという自覚はそこまで強くなかったそうだが、「そうした環境が結果的にアウトドア好きにさせたのかもしれませんね」と笑いながら話す。

「たぶん、冒険好きなんだと思いますね。バックパックで旅行するのも、ひとりであちこち周るのが楽しかった。それがすごく刺激的だったんです。高い山を登るのも、岩場があって恐怖心を感じることもあるじゃないですか。ぼくは飽き性なので、常に刺激的なことを求めていたいんだと思います」

「刺激を求める」というのは、仕事においてもそうだと梨本さんは語る。

「服屋ってそもそもそうだと思うんですよ。ひとつのことをとことん突き詰めるのもかっこいいけど、一方では新しいスタイルも模索したい。そこで刺激的なアイテムを探すという意味では、アウトドアとファッションって似ているような気がしますね」

先輩たちから伝えられる「ビームス」の伝統。

アウトドアよりも先にハマったのはファッションだった。高校は世田谷にある私立校に通い、授業が終わって向かったのは原宿。そこでさまざまな服やカルチャーに触れていたという。

「友達がみんなファッション好きだったし、従兄弟が『ビームス』で働いていたということもあって、よく買い物もしていましたね。それが90年代の半ばくらい。ちょうど裏原カルチャー全盛の頃でした」

高校を卒業後、97年にアルバイトとして「ビームス」に入社。そこで服のいろはを徹底的に叩き込まれることになる。

「とにかく先輩たちが超かっこよくて、超厳しかったんですよ(笑)。だから本当に毎日が勉強でした。最初は渋谷店に配属になって、そこから新宿にある『ビームス ジャパン』に異動しました。それで今度は銀座店で働いて、その次に代官山にあった『B印 ヨシダ』の立ち上げに参画したんです」

コンセプトは“大人の鞄”。〈吉田カバン〉の技術をしっかりと世に伝えながら、大人にも提案できる鞄屋さんを目指すっていうミッションを掲げてスタートした「B印 ヨシダ」。そのショップマネージャーとして参画し、のちにディレクターにも就任した。

「立ち上げた当初は、やっぱり先輩が厳しかったのを覚えてますね(笑)。なにしろ世界一の鞄屋を目指していたので。だけど、それによっていまの仕事の基礎ができました。お客さまと向き合いながら、より良い商品とはどんなものなのか? 本物とはなんなのか? そういうことを常に考えていましたね」

屋久島と東京の二拠点生活。

梨本さんが屋久島を訪れるようになったのは、ちょうどその頃。仕事に向き合う一方で、定期的にまとまった休日を取って、世界遺産を拝む旅に出ていた。「『いろんな経験をしたほうがいい』という上司の後押しもあって、一度に2週間くらい休みをいただいていたんです」と笑顔で話す。

「はじめて屋久島に訪れて、縄文杉を拝むコースでトレッキングをして、その次は白谷雲水峡っていう原生林が生い茂るコースでも登山をして。それがすごく楽しかったんですよ。東京に戻ってすぐに登山をしている先輩に連絡をして、『山に行きたいです!』って話をして。次の週には道具も揃えて、本州にある北アルプスとかも連れて行ってもらったら、結果的にハマっちゃったんですよね」

ここで冒頭のことを思い出す。「屋久島って奥深くて険しい山があるし、海が綺麗で、川もある」という梨本さんの言葉だ。

「ぼくは山登りも好きだし、釣りもするんです。そんな感じで、屋久島では登山をしたり、川で子どもたちと遊んだり、海で釣りをしたりしているんです。だから飽きないんですよね。釣った魚を料理して食べることもできるので」

屋久島に土地を購入したのはいまから13年ほど前のこと。島の魅力に魅せられて何度も訪れるうちに、「いずれ住みたい」と思うようになるのはある意味自然の流れなのだろう。地元の人にそれを相談したところ、いま住んでいる土地を紹介されたという。

「手に入れてからは10年くらい放っておいたままだったんですけど、その間に自分も結婚をして東京で家を買うことも考えていたんですが、屋久島に土地があるからということで妻も合意してくれて、ここに家を建てることにしたんです」

現在は東京と屋久島の二拠点生活をしている梨本さん。実際にどんなことを感じているのだろうか?

「妻と子どもたちが完全にこちらに移住していて、ぼくは月に1回くらい屋久島に来て、一度に2週間くらい滞在しています。リモートで仕事をして、草刈りとか家のことをやって、あとはアクティビティを楽しんで、という感じですね。やっぱり屋久島に来ると気持ちがリセットされる感覚がありますね。前までは年に1回とか、半年に1回しか来れてなかったんですよ。だけど、その頻度が上がって、気持ち的にすごくラクになりました。『行きたい! 行きたい!』っていう気持ちをすぐに解消できるから(笑)」

街でキレイに着ているギアを、あえて“汚す”。

こうした二拠点生活は現在の仕事にも活かされている。「B印 ヨシダ」から、いまは本家である「ビームス」のバイヤーとして活躍する梨本さんは、アウトドアブランドの買い付けを主に担当。ファッションとしての提案に軸足を置きながらも、彼はフィールドで使える“本物”のギアをショップで展開している。

「ファッションとフィールドを無理矢理切り離さなくてもいいのかなって思っています。デザインがかっこよくて、なおかつ機能的にも優れたアイテムをバイイングするようにしていて、それが『ビームス』ができることだし、ぼくたちの魅力だと思っているから。ファッションとしてアウトドアギアを手に取ったお客様が、登山に誘われたときにそのアイテムを身に纏って、はじめてその真価をフィジカルに感じることができる。今回『ビームス』のバイヤー陣たちも自分たちが扱うギアを使って屋久島でアクティビティをして、その魅力をダイレクトに感じることができたって話をしてくれて。そういう経験ってとても意味のあることだと思うんです」

梨本さんをはじめ、「ビームス」のバイヤーチームが行ったのは、原生林が広がる白谷雲水峡での登山と屋久杉の植林体験。フィールドで屋久島の杉の生命力を目の当たりにし、さらには未来に向けてそれを植えるという貴重な体験だ。

「屋久杉の植林って、なかなか経験できることじゃないですよね。今回は100本の苗をみんなで手分けして植えましたが、それを50年かけて育てて立派な屋久杉にするんです。それが伐採された後は、誰かの家の柱になるかもしれない。そしてその家が何百年も残っていくかもしれない。そう考えると、すごく意味のあることだなって思います。そうやって森を循環させることを学べたのは大きいですね」

バイヤーチームは「ビームス」で取り扱っているアイテムを着用して、今回のアクティビティに臨んだ。街では経験することができない“機能”を本格的に体感できる機会に恵まれたのだ。

「ぼくが屋久島でできることといえば、そうした体験を推進する“コト発信”なのかなと思うんです。だから、街でキレイに着たり履いたりしているアイテムを、あえてここでは汚してみる。そういうことをしたかったんです」

今回、バイヤー一行が宿泊したホテル「THE HOTEL YAKUSHIMA OCEAN & FOREST」の1階には、〈サロモン〉のショップおよびレンタルステーションが併設。最新ギアを購入できるほか、登山靴や登山グッズのレンタルが可能。https://www.ssh-yakushima.co.jp

屋久島にはさまざまなレンタルウェアのショップが軒を連ねるが、「ビームス」が取り扱うアウトドアブランドのひとつである〈サロモン〉もここでお店を構え、ウェアの販売はもちろん、シューズを中心にギアのレンタルも行なっている。今回のイベントも彼らと手を取り合いながら行われた。1947年にフランスで創業した〈サロモン〉。梨本さん曰く「屋久島との相性がいい」という。

「さっきも話したように、屋久島っていろんなフィールドがあるんですよ。〈サロモン〉には、それぞれのフィールドに適した幅広いアイテムがラインナップしていて、アクティビティに合わせてギアを選ぶことができる。気軽にトレッキングを楽しみたいときはローカットのシューズを履いたり、ガッツリと登山をするときはハイカットのしっかりしたブーツを履いて、重たい荷物を背負いながら山登りをすることもできますから」

世界中に数多と存在するアウトドアブランド。その中で自分たちの嗅覚と審美眼を頼りに、魅力的なアイテムを探し出す。それが梨本さんの主な仕事内容だ。その感覚を磨くのに、屋久島は最高の環境なのかもしれない。

「カラダが動きやすいのはもちろんですが、今回の登山で〈サロモン〉のプロダクトを使って思ったのは、まずウェアは、山道を歩いていて木の枝とかが引っかからないこと。どうしても険しい山道になると、そうした些細なことが起こるのと起こらないのとでは大きな違いが出てきます。だからウェアのパターンってすごく大事なんです。もちろんシューズも。当日は雨が強く降っていて地面が酷くぬかるんでいました。だけど、完全防水の機能であったり、トレイルに長けたグリップ力とホールド力の高さには全員舌を巻くほどで、安心してハイクすることができました。やっぱりフィールドに出てみないとわからないですよね。悪天候だったとことが功を奏したとも言えますが、デザインや機能の重要性を身を持って体感できたことは、バイヤーチームにとっても良かったと思います」

SALOMON XT-6 GORE-TEX
SALOMON XT-6
屋久島の生活で得られる大きなアドバンテージ。

屋久島というフィールドが身近にあることによって、見た目だけではわからない、ギアの本質を知ることができる。アウトドアブランドのバイヤーとして、さらには生粋の冒険好きとして、屋久島の魅力を知ることができたのは大きなアドバンテージになっているに違いない。

「ビームスでは、どのバイヤーもモノを買い付ける上で、カルチャーへの理解をすごく大切にしていて、それらを実際に体験しているからこそ自信を持って本物であるとお客様に提案ができる。これは、ビームスが洋服屋として大事にしているスピリットでもあります。なので、今後も『ビームス』で取り扱っているギアをしっかりフィールドで使って、そこで得た気づきをスタッフにフィードバックしていきたいですね。ファッション面だけじゃなくて、しっかりと機能的な部分の魅力も伝えて、接客に活かしてほしいと思っています」

さらに梨本さんには、それよりも大きな望みがあるそうだ。それは一体どんなことなのか?

「こっちで『ビームス』のフィルターを通して、より屋久島の魅力を伝えるコンテンツを発信できたらと思っています。屋久島はアウトドアの聖地。ラボ的な感じで実験的にいろんな試みをやっていけたら、おもしろそうじゃないですか。いまはそれを個人的な目標にして、何ができるかを考えているところ。もし実現すれば、いろんな広がりが生まれそうだなって思うんです。そうしたらきっと、『ビームス』がもっと魅力的になると信じています」

Photo:Shinsaku Yasujima
Text:Yuichiro Tsuji
Edit:Jun Nakada

  • PROFILE

    梨本大介(ビームス バイヤー)

    東京昭島市生まれ。19歳よりビームス東京でアルバイトを開始し、その後正式に入社。2003年、“大人の鞄”をテーマにしたB印ヨシダの立ち上げに参画し、以後ディレクションに携わる。2019年、ビームスカジュアルのバイヤーに就任。アウトドアマスターとして知られる二児の父。

その道の達人たちに学ぶ、外遊びを全力で楽しむための秘訣。

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